2020年に入り、中国で流行し始めた新型コロナウィルスによる感染症は、日本をはじめ世界各国で大流行しています。特に韓国、イタリアは検査件数を拡大したため、本来は自宅療養で対応できるほどの軽症患者を受け入れすぎてしまいました。このことで、本来は迅速に治療を行わなくてはいけないはずの重症患者に対しての治療が行き届かず、次々と死亡する「医療崩壊」の状態に至っています。
幸い、日本では医療崩壊とよばれるまでの状態には至っていませんが、まったく別の問題が生じてきました。その1つが、新型コロナウィルスによる感染症を理由とした不当解雇です。2月14日から厚生労働省東京労働局が設置している「新型コロナ感染症の影響による特別労働相談窓口」への3月10日までの相談件数は、累計で561件に上りました。
参照:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200311-23110782-nksports-soci
この専用ダイヤルでは、雇用主・労働者からの相談を受け付けているとのことですが、労働者側からはやはり解雇に関する相談が増えているとのことです。
今回の記事では「突然解雇を言い渡された場合の対処法」を考えるために「解雇とは何か」などの基本的な部分から、徹底解説します。
1.解雇について知ろう
本来、解雇とは「会社の一方的な意思により労働契約を解除すること」を指します。俗語では「首を切る」「クビ」と言いますが、本人の意思とは関係なく行われるという意味で、このような俗語が付いたのでしょう
一口で解雇と言っても、何が原因で解雇するのかによって、扱いは全く異なります。
まずは、違いを正しく知りましょう。
1-1.3種類の解雇とは
解雇を「解雇されるに至った原因」で分けると、以下の3つに分けられます。
・ 普通解雇:主に労働者の勤務成績や適格性の欠如など能力や適性または労働不能を原因としてなされる解雇を指す。
例)長期の療養が必要な病気で長期間出社できないなど、健康状態が業務に耐えられない状態である
・ 懲戒解雇:会社の規律に違反したことを理由とした解雇を指す。
例)殺人、強盗、強制性交などの重大な犯罪により逮捕された。
・ 整理解雇:会社の倒産、事業規模の縮小など、経営上の必要性による解雇を指す。
例)会社が倒産してしまい、その日付で解雇になった。
1-2.解雇の正当性を判断するには
解雇はいわば「本人は辞めるつもりはないのにいきなり辞めさせられてしまう」ことです。
個人の権利を著しく害するおそれがある行為であるため、法律で厳しく制限されています。
このことを規定した法律に、労働契約法があります。労働契約法では、客観的合理性・社会的相当性がない解雇は会社側の権利濫用に当たるため、無効としているのです。
つまり、解雇に値するトラブルがあったとしても、社会通念に照らして解雇にするほどのことかどうかを考えた上で、解雇が正当なものかどうか判断されます。決して、職場の上長の勝手な判断で進めていいものではありません。長くなりましたが「解雇は簡単にできるものではない」という前提を、まずは覚えておきましょう。
2.解雇に関する制限
解雇は簡単にできるものではないことは、法律による規制にも表れています。
ここでは
・ 労働基準法による解雇制限
・ その他の法律における解雇制限
について解説します。
2-1.労働基準法による解雇制限
労働基準法では、次の期間を「解雇をしてはいけない期間(解雇禁止期間)」として定めています。
・ 業務上の傷病により休業している期間とその後30日間
・ 産前産後の休業とその後30日間
本来、労働基準法は、働く人が「健康で文化的な生活を営むこと」を目的として作られた法律です。そのため、病気やケガで休んでいたり、子どもが生まれて育児で大変だったりするときにまで解雇をしてしまったら、解雇された人の生活はめちゃくちゃになってしまいます。そこで、解雇禁止期間を設け、会社(雇用主)側から一方的に解雇できないようにしているのです。
例外として、天災事変その他やむを得ない事由のために会社の事業の継続が不可能になった場合には解雇できます。ただし、労働基準監督署長の認定を受けないといけないため「会社の裁量=好き勝手にできる」というわけではない点に注意しましょう。
2-2.その他の法律における解雇制限
その他の法律においても、次の理由による解雇は禁止・制限されています。
・ 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇(労働基準法)
・ 労働組合を結成しようとしたことなどを理由とする解雇(労働組合法)
・ 性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法)
・ 妊娠・出産・育児休暇・介護休暇を理由とする解雇(男女雇用機会均等法)
・ 妊娠中及び出産後1年以内の女性に対する妊娠・出産を理由とする解雇(労働基準法)
・ 公益通報を理由とする解雇(公益通報者保護法)
・ 労働基準監督署などに申告・申出をしたことを理由とする解雇(労働基準法)
・ 企画業務型裁量労働制の対象として同意しないことを理由とする解雇(労働基準法)
・ 個別労働関係紛争に関するあっせん申請をしたことを理由とする解雇(個別労働紛争の解決の促進に関する法律)
今回の記事で取り上げている「新型コロナウィルスによる感染症」とは関係ありませんが「子どもができた」「パワハラを受けたので労働基準監督署に相談した」などの理由で解雇すること自体も制限されていることを覚えておくと、何かと役にたつはずです。
3.解雇予告と解雇予告手当
次に、解雇予告と解雇予告手当について説明しましょう。
3-1.解雇予告とは
「明日から来なくてもいい」と、突然解雇を言い渡してしまうと、その人の生活は立ち行かなくなってしまいます。
このため、法律では会社=雇用主が社員=労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前には解雇予告をしないといけないと決めているのです。
3-2.解雇予告手当とは
状況次第では、解雇を知らせた日から実際に解雇をする日まで、30日を切ってしまうこともあり得ます。
その場合、雇用主は労働者に対し、30日に不足する分の解雇予告手当を支払わないといけません。
例えば、解雇予告期間が15日だった場合、30日ー15日=15日分の解雇予告手当を支払うことになります。
3-3.解雇予告・解雇予告手当が不要な場合
解雇を行う際にはあらかじめ解雇予告を行うとともに、実際に解雇する日まで30日を切っていたら、30日に満たない部分の給料を解雇予告手当として支払う必要があります。
しかし、一定の条件に当てはまる場合は不要になるので覚えておきましょう。
例えば、以下の2つの場合は、労働基準監督署長の許可があれば、例外的に解雇予告や解雇予告手当は不要です。
天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合
横領など労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
また、次のような労働者に対しては、解雇予告および解雇予告手当は不要です。
1ヶ月以内の日雇い労働者
2ヶ月以内の雇用契約中の労働者
4ヶ月以内の季節的業務に関する雇用契約中の労働者
14日以内の試用期間中の労働者
しかし、当初定められたこれらの期間を超えて引き続き働いていた場合は、解雇予告や解雇予告手当が必要になるので、注意してください。
4.解雇予告されたら何をするべき?
実際に「来月から来なくていいよ」と、解雇予告されたらどうすべきか、考えてみましょう。
4-1.書面を確認して不当解雇に当たるか判断しよう
「言い争いになりそうな場合は、メールや手紙でやり取りすること」というのは、仕事上のトラブルを解決する上での基本です。
解雇についても例外ではありません。解雇予告を受けた場合は、口頭で済ませるのではなく、会社から書面を交付してもらい、自分で確認しましょう。
解雇理由を知るためには、解雇理由証明書を見るのが最も確実です。解雇理由証明書は、労働者が請求した場合、会社は遅滞なく交付しなくてはいけません。また、解雇理由証明書に書かれている解雇理由は、就業規則を根拠にしたものになります。就業規則のコピーもあると確実です。なお、会社に解雇理由証明書の交付を求める場合は、メールや郵送によるのをおすすめします。
4-2.書面で解雇予告手当について確認する
解雇理由に加え、解雇日、解雇予告手当がどうなっているのかを確認する必要もあります。
解雇日や解雇予告手当の計算があっているかを確認しておけば、解雇を受け入れた場合に解雇予告手当の請求がスムーズにできるためです。
ただし、解雇予約手当の請求すると、解雇を受け入れたとみなされてしまいますので、不当解雇として争うつもりなら確認だけにしておきましょう。
5.不当解雇を主張する場合の対処法とは?
まずは、労働法に強い弁護士さんや所轄の労働基準監督署に相談しましょう。
それを踏まえた上で、解雇の理由に納得がいかず、不当解雇を主張する場合は、次の流れで対処しましょう。
5-1.会社に解雇の撤回を求める
同じ会社で働き続けたい場合は、会社に解雇の撤回を求めましょう。内容証明郵便を送り、会社に解雇の無効を主張していくのが一般的な流れです。
5-2.不当解雇によって発生した未払賃金を請求する
解雇が無効であるとすれば、雇用関係は終了していません。
つまり、働き続けていたのと同じなので、未払い賃金を請求できます。
また、不当解雇を主張したものの、その会社で働き続けるのも嫌だ、という場合は、解雇の撤回を求めずに、未払い賃金の請求を行うことも可能です。
5-3.労働審判、裁判で争う
自分ではどうにもならないと思ったら、労働審判や裁判を起こしましょう。
労働審判とは、裁判官や専門的な知識を有する労働審判委員などが、当事者間の調停を試みながら最終的に審判を行うものです。
原則として、3回以内の審理で労働審判が出されますが、内容に納得がいかない場合は、異議申し立てをして効力を失わせることができます。
さいごに
実際のところ、不当解雇かどうかの判断は、法律の専門的な知識がなければできません。やはり、労働法に強い弁護士に相談するのがベストです。不当解雇かどうかの判断を踏まえた上で、労働審判や裁判を行うかどうかの対処法を判断してくれます。まずは、一人で悩まず相談してみましょう。