古くは江戸時代から「商売の基本は薄利多売」と言われています。しかし安売りをし続けるだけで商売は繁盛するのかというとそういうわけではありませんし、実際に多くの安売りしているだけの店舗や会社が潰れているのも事実です。
では、繁盛し続ける店舗や会社と潰れてしまう店舗や会社には、どのような違いがあるのでしょうか?
低い利益で多くの商品を売ることが「薄利多売」
薄利多売とは、
品物一つ当たりの利益を少なくし、たくさん売ることで、全体の利益を多くすること。
(デジタル大辞泉)
です。
消費者目線で考えれば、「同じ品質のものであれば少しでも安く買いたい」というのが本音でしょう。なので利益を少なくすれば消費者からの注目を集めることができますし、多くの人を集めることができます。
その結果として、多くの商品を販売することができ、薄利多売というビジネススタイルが成り立つのです。
「薄利多売のビジネスモデル」が失敗する理由とは?
ですが、「商売の基本は薄利多売」と言われていた時代と今の社会では当然状況が違っています。現在では、似たような商品を提供している競合の数は当時とは比べ物にならないほど多く存在していますし、インターネットなどを使った通信販売もあります。
そのような状況にもかかわらず、ただ薄利多売のビジネスをやっているだけでは、当然ですが競合もそれに追随してきた場合、価格競争に巻き込まれてしまいます。しかも薄利多売はただでさえ利益が低いので、より多くの消費者に販売する必要が出てきてしまいます。
ですが、店舗や会社の商圏には限界があり、その中にいる見込み客の絶対数も決まっています。その結果、利益を大量に上げ続けることが困難になり潰れてしまうのです。
また、ほぼ利益がない商品を目玉商品として設定して、一緒に他の商品も買ってもらうことで利益を上げるといった方法も「薄利多売のビジネスモデル」の1つと言えます。
この方法であれば、一見すると利益は確保できているので潰れる要素は前者よりも低いと言えます。しかしもし、消費者にとってその目玉商品が持つ魅力がなくなってしまった場合、別の商品は安売りしているわけではないので、来店する動機が失われてしまいます。
現代社会において、商品価格に頼った「薄利多売のビジネスモデル」は、一瞬の集客はあっても継続して利益を上げ続けることが難しく、結局潰れてしまうケースがいことが多いのです。
現代社会での「薄利多売のビジネスモデル」とは?
では、「薄利多売のビジネスモデル」はもう使えなくなってしまったのか?というと、そうではありません。消費者の、「同じ品質のものであれば少しでも安く買いたい」という気持ちは昔も今も変わっていないからです。ですが実は、それ以上に重要な要素が生まれているのです。
それは、消費者との関係性を築くことです。
チェーン店のマニュアル通りの画一的な接客や、インターネットなどで行われている顔が見えない中での商品の売買では、消費者との関係性を構築していくことは難しいことです。だからこそ、消費者との良好な関係性を作ることができれば、何度も通ってくれるお得意様を作ることもできるのです。
よくビジネスの場で利用されている心理学の一つに「マズローの欲求段階説」というものがあります。人間の欲求は、それぞれのステージにおいて5つの階層に分類することができるというものですが、その中の1つに承認欲求というものがあります。これは、「自分はこういう人物である」ということを他者から認められたいという欲求であり、特別な存在として扱われたいという気持ちでもあります。
消費者が持っているこの気持ちを上手く汲み取ることが、関係性を作ることにも繋がっていきます。
そのことを上手く利用しているのが、伊勢丹や三越などの百貨店に存在すると言われているVIPルームです。VIPルームに入ることができるのは、年間で一定以上の金額をその店舗にある商品を購入するために使った人に限られています。つまり、消費者側にとっては特別な存在として認められたいという欲求が満たされているのです。
これをどうやって薄利多売のビジネスモデルと結びつけていくのかですが、まずは1人でも多くの消費者に認知してもらうために薄利商品を作り、その商品を販売していく中で消費者との信頼関係を構築していきます。それを何度か繰り返していくことができれば、お得意様を作ることにもなり多売に繋がるのです。
良い信頼関係を築くことはビジネスの基本
「商売の基本は薄利多売」ということは、今も昔も実は同じなのです。しかし時代の変遷の中で競合の存在や消費者が求めるものが変わってきたので、薄利多売が意味することも、
「利益を低くして多くの商品を売る」
↓ ↓
「利益の低い商品で注目を集めて、他の利益率の高い商品を売る」
↓ ↓
「消費者との関係性を構築するために、利益の低い商品で注目を集める」
というように変わってきています。
人と人との結びつきが薄くなってきている現代だからこそ、本当に求められていることも消費者とのより深い結びつきなのかもしれません。良好な信頼関係を築いていくことはビジネスにおいても非常に大切なことと言えます。