仕事ができる人は、大抵「整理整頓」が上手です。頭の中に数多くの引き出しがあって、常に整理整頓されているからです。ですから必要なときに、必要な情報を瞬時に引き出してこられるのです。
これは言い換えると、日頃の情報収集能力、処理能力に長けていると言っても過言ではありません。
数々の情報をきちんと区分けされた引き出しに納めること。簡単なようでいて、実に面倒な作業です。でも、この作業をこつこつ積み上げた結果、必要な情報を基にした正確な判断ができるのです。
コンピューターに例えると、オペレーションシステムの応用とでも言ったら分かりやすいかもしれません。フォルダとサブフォルダの有効活用。と同時に情報自体の蓄積。自己管理能力を高めるための第一歩がここにあると言えるでしょう。
頭の中での整理整頓
私はかつて、とあるマスメディアの編集部門に在籍していたことがありました。毎日、四六時中、膨大な量の電文、情報が送られてきます。その中から必要な情報だけを取捨選択していく作業が、延々と続きます。
まずは情報の価値の判断が第一ですが、この価値の順位を基に選別していくわけです。この順位も大まかな部分では誰しも似たり寄ったりなのですが、細部にわたっては自分自身の価値基準みたいなものが軸となります。
簡単に言うと、これまでの自身の生き様、生き方、物の考え方といったものが、情報の価値を判断する上での物差しになるということです。
価値基準に関しては、また別の機会があれば…と思いますが、とにかく膨大な情報をいかに迅速に選別していくか。使う情報よりも、捨てる情報の方が何倍も大きいというのが実態です。
マスメディアは周知のように、速報が使命です。ですから、限られた時間の中で政治、経済、社会、文化、科学、生活…などといった各ジャンルに区分け、選別され、順位づけされた情報がきちんと指定された「ボックス」(=フォルダ)の中に入れられていかなければなりません。
さらに、その情報をまた別の編集者が取捨選択。ときに別々の情報を必要な部分だけ抽出してつなぎ合わせ、一本の完全且つ正確な原稿や記事に仕上げるといった作業を行ったりもしています。
また、編集者はこういった物理的な作業と同時に、自身の頭の中にある各「ボックス」にもきちんと情報を刻み込み、蓄積していっています。要するに頭の中の「整理整頓」をしっかり行っているということです。
この作業を怠ると、次に関連した情報なりニュースが入ってきたとき、正確な判断ができず、あたふたすることになってしまうのです。まさに編集者の力量が問われる部分がここにあるというわけです。
整理整頓は、すべての職業に不可欠な要素
整理整頓は、別にこんな編集の分野だけでなく、どんな職業、仕事でも必要不可欠な要素であることに違いありません。体系立てて「フォルダ」を作り、それぞれに自分が収集した重要な情報を収納していく。いつでもどこでも必要なときに取り出せるように整理整頓しておくこと。
こうしておけば、精神的にも安心していられることでしょう。
「やることだけはやった。多分、何があっても大丈夫」
「蓄積があるから、まあ何とかなる」
「対応が難しかったら、これも経験として保存してしまえばいい」
…等々。心にゆとりが生まれ、いろんな仕事をする上でも余裕をもって当たることができることでしょう。
即ち、この余裕こそが整理整頓力を高め、強いては自己管理能力の向上に拍車をかけてくれることになるのです。
身の回りの整理整頓も同軸
整理整頓は、頭の中だけでなく、ご自身が生活する身の回りに関しても実践すべき事柄です。
机の上や引き出しに始まり、自分の部屋や車の中はもちろん、オフィスであるなら自身が使っているエリアのすべてが対象範囲です。
机の上はパソコンなど必要以外の物は何も置いてないか?
引き出しは常にきちんと整理されているか?
本棚もジャンルごとや、単行本、文庫本のほか、大きさによって定形、不定形に区別されているか?
さらに雑誌類は…。
これらはオフィスでも同じことです。こんな風にきちんと整理整頓されていることは、言うまでもなく望ましい形です。
一方で、「頭の中と、身の回りのことは関係ないだろう」といった反論の声が聞こえてきそうです。
ところが、実は両者とも同じことなのです。
というか、身の回りの整理整頓ができていると、頭の中の整理整頓もしっかりできるようになるものです。なぜなら、どちらも整理整頓しようと意識することには違いないからです。
そんなことはないと思われる方は、一度騙されたと思ってやってみてください。ただし、短期間ではダメです。長期にわたって淡々とやり続けなければ意味がありません。要するに、意識下に訴え、焼き付けることが目的なのですから。
皆さんも何かで経験があると思います。無意識の中で起きた、ほんの小さな習慣。癖みたいなものでもいいです。続けるといつの間にか習慣化されてしまったというような経験です。探せばきっとあることでしょう。
整理整頓も同じように習慣化させるのです。頭よりも体で覚えさせる感覚です。体で覚えたものは、そのうち頭が勝手に追い付いてくるものです。
少し極端な例ながら、整理整頓の達人だった方のケースを紹介しておきたいと思います。
私の知人でヨーロッパに30年以上在住し、計7ヶ国語を堪能に話す方がおられました。帰国後は自治体絡みの貿易会社を営む傍ら、地元県知事の通訳も担当していました。その方はまさに整理整頓の名手でした。
しかもズバ抜けた記憶力の持ち主。自分の気に入った本の一節は、本棚の何段目の右から何冊目の何ページにあるのかまで覚えていました。もちろん家の中は驚くほど機能的に整理整頓されていたものです。そしてご本人の弁。「頭も体も使えば使うほど年を取らないもの。習慣化が大切」と。お手本を前に、ただただ感心するばかりでした。
最も大切なのは「ほどほど」の感覚
頭の中での整理整頓。加えて身の回りの整理整頓も…。となると、一見、神経質な性格になってしまうのでは…といった危惧を感じられる方もおられると思います。
確かに、先述した私の知人の例を挙げるまでもなく、100%徹底して取り組んだら息苦しくてしようがないことでしょう。ここは一つ、常識の範疇で余裕を持ち、何事も適度にといった感覚を忘れないでほしいものです。まさしく「ほどほど」の感覚です。
これはすべてのことに共通して言えることですが、常にマイペースを維持することが肝心です。
ときに人間は、ハイペースになったり、オーバーペースになったりします。もちろんそういったことが必要な場合もあります。それでも、例えそんな境遇に陥ったとしても、できるだけマイペースに戻そうとすることです。
ただし、このマイペースには個人差があります。ですから、他人を決して見ないこと。他人の意見に振り回されないことです。自分で「何となく無理かな~」と思ったときはハイペース。「もう完全に無理。限界」と感じたらオーバーペースです。しっかりとマイペースに戻そうとする意識が必要です。
自己管理能力を高める第一歩となる「整理整頓」。ほどほどの感覚、マイペースの維持だけは絶対に忘れないよう心掛け、自分のできる範囲で階段をゆっくり上るように、少しずつ取り組んでいってください。